北ア;燕岳〜大天井岳〜常念岳〜蝶ケ岳
(つばくろだけ〜おてんしょうだけ〜じょうねんだけ〜ちょうがたけ)

夫婦二人の初めてのテント泊、が…いろいろとハプニング


 H10年5月1日(金)〜5月4日(月) 天気.下記 ; Member.2人(夫婦)

【「燕岳」燕山荘より】

【一日目】5月1日(金) 天気;快晴
中房温泉8:25〜合戦小屋11:50-12:50〜燕山荘14:10ー55〜燕岳15:25-35〜燕山荘16:00(テント泊)

 GWの渋滞混雑を考慮して、30日(木曜日)の午後出発。川崎から穂高まで約4時間(PM8:00)で到着。穂高から中房温泉まではタクシーを利用する為、予約を入れようと、駐車場を捜す前に駅前の南安タクシーに尋ねてみる。とても親切な対応で、駐車場は会社の空き地に無料で置かせてくれるという。翌朝その駐車場に迎えに来てもらうことにして私達はその晩車中泊。

 翌朝4時半起床。朝食と支度をしていると、6時半の約束だったが5時半にはもう迎えのタクシーが横付けになっていた。今年は春先の大雪で、落石倒木があり道路が荒れたそうだ。その整備の為5月1日から時間制限(午前7時から8時までの1時間)でようやく中房まで車(マイカー、タクシー)が入れるようになった。入山の混み具合によりゲート前でどれだけ並ぶか分からないからとタクシー会社の人にも予測がつかないようだった。

 6時半に出発、ゲートで少し待って中房温泉へ1時間弱の道程。運転手さん(神野さんという)が山好きの人で、しかも神奈川県藤沢出身だった為話が弾み、あっという間に到着。料金は7500円。人は結構居たが混んでいるという数では無かった。身支度をし入山計画書(持参のもの)を投函してゆっくりと歩き出す。私のザック約18キロ、主人なぜか15キロ。

 ムシカリ(オオカメノキ)の白い花がきれいに咲いている。事前に小屋情報や長野県警の春山情報など調べ、残雪状況をある程度把握していたが、なるほど雪がない。このコースは今回初めてだが、例年より少ないというのも頷ける。合戦小屋までほとんど無い。途中リスが木の上を走り回っていた。合戦小屋で昼食。地図には水場があると出ているが、分からなかった。周りには残雪。足下を雪解け水が流れる。トイレは比較的きれいだった。

 合戦小屋からは雪の上を歩く。快晴の太陽が眩い。サングラスをかけるが、かけていない人には小屋の人から注意されていた。トレースがついていて、危ない所も無く、十数分で見晴し台のような場所に立つ(合戦沢の頭)。燕山荘から燕岳まできれいに見える。目を左にずらせば槍ヶ岳も見える。あそこに立った事があると思うと感慨深い。燕山荘まで後一息だ。しばらく雪道を歩くが小屋に近付くとまたその雪はなくなった。代わりに急登だ。いままで緩やかな登りだったから、ここが一番きつく感じた。

 小屋を周り混んで本館に向かうと眼前に燕岳が現れる。今までに無かった山容だ。尾根上に雪は全く無い。

 一人500円也のキャンプ代を支払って、テントを設営後、燕岳へと向かった。テルモスと合羽だけを持ち、やっと身軽な格好になって。往復約1時間。ガスがかかっていたが時折見える槍を眺めながら、写真を撮りつつ楽しんだ。山頂でたまたま写真を撮ってあげた一人の青年、この青年が今回の山行の同道者となるとはこの時まだ分からなかった。

 テントで夕飯はスパゲティ。夕焼けを観てから小屋のテレビで天気予報を聞く。明日は何とかもちそうだが、どうやら下り坂だ。早く寝て、明日は早めに行動しよう、ZZZzzzz.......。



【二日目】5月2日(土) 天気;曇りのち雨、強風
燕山荘7:20〜切通岩〜大天井岳11:45-12:15〜東天井岳分岐13:15〜 横通岳〜常念小屋15:15(小屋泊)

 何という風だ。昨夜一晩物凄い風でほとんど眠れなかった。今日一日大丈夫だろうかと、テントを開けた。と、前室に置いた筈の食料が無い!揃えておいた靴は横倒しになっている。慌てて前室を開けた。目の前に我が家のハムが落ちている。その時も風が強く急いで靴をはいて拾いにいった。テン場は雪の上だが雪解けの土面にあたったらしく、未開封のハムは汚れている。見れば吹き溜まりのような場所にひと固まりの我が家の食料。拾い集めてとりあえずテントにつっこみ改めてチェックする。

 昼食用、レーション用のパンやチョコレートなどが全部飛ばされている。これで縦走できるだろうか?何というミステイク!非常用の分を全部入れれば、何とかなるだろう。小屋も開いている事だしということで縦走と決めた。しかし問題は天候だった。この強風で、今回一番高い大天井を乗り越えられるだろうか。燕山荘で情報を聞く。「人間が飛ばされる事は無いだろうが、ここ(燕山荘)でこの強さなら、大天井岳はもっと強いですよ」という返事。風に飛ばされないようにたたんできたテントなど、とにかく詰め込んできたザックを小屋の中でパッキングし直しながら、周りの様子を伺っていた。もとよりPHの人が多かったが、縦走を考えていた人たちも下山と決めて次々に小屋から出て行く。残雪状況や尾根道の様子を聞きつつ、「人間が飛ばされる事は無い」という言葉を反芻して、それなら行ってみようという事になった。

 道はやはり夏道だ。しかし残雪のある所もあるので、小屋で何箇所か冬ルートを行くようにアドバイスされた場所がある。風は西南の風。東側にかなり雪が残っているからここはこの向きの風が多いのだろう。燕岳の岩の形も皆西からの風を受けた形だった。スレ違ったのは6、7人の若者のパーティが二つ、単独行の中年が二人くらいだったろうか。私達より後から出てくる者はもういないだろうと思っていたら、休憩中通り過ぎて行く若者が一人、それが昨日燕で出会った青年だった。もちろんこの時はまだ別行動だが、時折挨拶を交わしながら、前後して行った。

 大天井岳は直登。一部凍り付いている場所があり、注意を要する。さすが今回の一番高い山(2922m)だけあって、思ったよりきつい。

 やっと山頂につくとさっきの青年がいた。写真を撮ってもらって彼は先に出発した。いくらか風がおさまってほっとする。コーンスープを飲みお湯をわかして補給した。

 ここで後から二人の若者が登ってきて驚いた。西岳(槍方面)に行くという。先に下山するが、こちらは雪がしっかり残っている。分岐点でもあり、踏み跡は散らばっている。ガスが出て更に分かりにくくしているので、地図と磁石が必要だ。かすかに見えた大天荘は今シーズンまだ閉まっている。夏道と残雪道のまじったルートを行くと、やがて常念の方向を示す標識がある。鋭角に方向が変わり、さらに急斜面の残雪の上をザクザクと下る。雪崩がおきそうな身の危険を感じる場所だった。雪面を通り過ぎたところでまた地図と磁石を出して確認した。間違えていないのを確信して先を見るとさっきの青年がはるか先に歩いているのが見えた。なだらかな登山道だ。再び風が強くなり、曇りで見通しも良くない上に霧雨が降ってきた。雨が顔にあたって痛い。飛ばされそうなくらい強い風の中を歩くのはかなりエネルギーがいる。立ち止まっては進む、というのを繰り返すのでペースがあがらない。

 横通岳を通り常念小屋が見えた時はほっとした。しかしそこから小屋につくまでの長く感じたこと。途中樹林帯があり、そこは雪がかなり残っていたが、心配する程では無い。ようやく鞍部に着き、小屋に向かう。吹きさらしのそこはやはり歩くのが大変だった。

 テン場を見ながら今晩はどうしようかと二人で相談。昨夜より風はよけられそうだが雨水が入って来そうな場所だ。昨夜あまり寝ていない事だし、今夜は小屋泊まりに決定。

 素泊まりにしたので早めの夕食を準備していると、同じコースを歩いて来た先ほどの青年と同席する事になった。寡黙な感じだったが、うるさいオジサンとオバサンにつられて?いろいろと話し、私達は楽しかった。

 7時のニュースでは明日は雨。さて、それでも早く寝るとしよう。



【三日目】5月3日(日) 天気;雨のち曇り、強風
 常念小屋連泊

 やはり雨。外は風も吹いているが、前日の夜はほとんど寝ていないので夜はぐっすり眠れた。もし昨夜もテント泊だったらきっと又眠れなかっただろう。

 昨日の青年、森山さんと、今日も同じ席について、一緒に朝食の用意をする。外は土砂降りだ。昼頃まで待ったが止まないので連泊する事にした。森山さんも連泊にしたので一日共に過ごす。

 昼過ぎにやっと雨が止んだ。二階の展望室からは槍から北穂までの稜線が見える。ガスでなかなか見えず、しばらく待ったが、小屋にしては喫茶店のようなフロアになっているのでとても居心地が良い。皇太子様が常念に登られた時お食事をされた部屋なのだそうだ。

 今日も泊まり客は少ないだろうと思っていた。しかし驚いた事に3時を過ぎるとぞくぞくとやって来た。燕山荘からも、一の沢からも。一の沢から来た人は雨水と沢の水で靴の中までぐっしょりだった。皆一様にくたびれ果てていたが、小屋に入った瞬間の顔はどの顔も明るい。充実した顔だ。空を一日眺めていた私達の方が疲れた顔をしていたかも知れない。

 夜7時前の天気予報を聞く。明日は天気が良さそうだ。食堂で一緒に見ていた人たちの拍手があがる。
 さあ、明日は早い。

左【常念岳より大天井方面を望む】

【四日目】5月4日(月) 天気;快晴
 常念小屋4:55〜常念岳6:25-7:35〜2592m8:45-9:00〜次のピーク9:50-10:10〜蝶ケ岳山頂11:25-12:25〜 蝶ケ岳ヒュッテ12:55-13:35〜三股16:50〜ゲート18:50

 日の出と共に出発する。本当は常念山頂でご来光を仰ぎたかったのだが、寝坊してしまった。

 見事な雲海を眺め、朝日を浴びながら、常念にゆっくりと登って行く。登っている人のほとんどが空身のピストンだった。

 一日小屋でのんびりしていた体には、夜明けと共に重いザックを背負っていきなり登るのは、やはりちょっと辛い。まだ眠っている体を少しずつ持ち上げ、途中一回休んでゆっくり目を覚まさせる。途中残雪があり、アイスバーンになっている所があるが、ピッケルを使いながら登って行く。

 山頂に雪はなく、爽快だった。360度全開だ。特に槍を中心に南北にのびる山脈は迫力満点だ。あの先端にも、あっちのてっぺんにも登ったんだ。なんだか信じられない気持ちだ。少ないとはいえ雪化粧が残っているから余計に近寄りがたい物に感じるのかも知れない。

 山頂でドリップコーヒーをいれていると背中から「おはようございます」という声。振り返ると森山さんだった。出発の時間が違うし下山ルートも違うから昨日でお別れと思っていたが、丁度彼の事を思い出して話していた時だけに、びっくりしてしまった。「ちょうどよかった、コーヒー飲んでいきなよ」と、我が家の茶の間に誘うような感じで、また三人の行動が一緒になる。若い森山さんには迷惑だったかも知れないが、私達はすっかり喜んでいた。

 常念山頂の展望を十分堪能した後、再び蝶へ向かって歩き出した。私達の遅いペースに合させるのは気の毒だから、私達は先に出れる時は先に出発した。逆に先に行ってもらった事もある。でもピークでは必ず一緒になった。山の感激を共に味わえる人が、側にいるというのは良い。仲良くなればなおさらだ。

 尾根筋はほとんど夏道だったが、蝶に近付くとなぜか雪が残っていた。そこで休憩の時その雪でかき氷にした。紅茶を甘くしてかけたが森山さんがコンデンスミルクを持っていたので更に美味しいものとなった。

 蝶ケ岳へは二つのピークを越え、あそこが頂上と思いきや、そこは蝶槍だった。山頂はその先にあるが、蝶槍の先端の方が高くて、どう見ても山頂らしかった。見ると山頂は広々としており、登山者が大勢いた。やはり、広い方でお昼にしようとそちらへ移動。この稜線も雪は全く残っていない。

 山頂へ行く途中、ヘリコプターが一機涸沢に飛んで行った。この時になって何かへンだと思いはじめた。奥穂上空に飛んでいるヘリは初めマスコミの撮影用かと思っていた。しかし、涸沢にも飛んで行き、そのまま上がってこない。荷物用ではないようだ。何かあったのかもしれない。穂高に行くと言っていた人の安否が気になった。この時は知る由も無いが、帰路の車中で滑落死があった事を知る。50代の女性だった。鹿島槍や剣でも事故があったそうだ。御冥福を祈りたい。

 蝶ケ岳山頂から見た穂高はこれまた迫力があった。昼御飯を食べながらここもゆっくりした。この時の食事は白米を森山さんに分けていただいた物だった。食料を風に飛ばされて乏しい事を話したら、余るからと、分けて下さったのだ。大変助かった。

 その森山さんともそろそろお別れかと思うと名残惜しい。蝶ケ岳ヒュッテで乾杯しようという事になった。お酒は強いようだがビール1缶ずつでお疲れさまの乾杯。蝶ケ岳ヒュッテからは一昨年娘と登った焼岳が見える。

左【後方は「焼岳」】
 蝶ケ岳ヒュッテより

 三股へ下りる私達はもうゆっくりしていられない時間だった。タクシーを予約する時下山に6時間から7時間と言われ、森山さんとの挨拶もそこそこに別れた。森山さんは上高地の横尾へ下山した。

 三股への下りはこのコースの中で一番多い残雪だった。最後に蝶で買った150円の水を落としてしまい、慌てて拾い上げた主人の動きの素早さに驚かされた。なんだ!まだ元気じゃん。途中から踏み跡があやしくなった。赤いマークを確認しつつ下って行く。このルートはあまり通らないようだ。だが下から登ってくる人がいる。結果的に数パーティ、10人以上が入山して来た。有り難い事にこれでしっかりしたトレースがついた。しかしトラバース気味の場所が多く、緊張する。ピッケルは必携だ。標高2000m程の所を過ぎてようやく雪が少なくなってきた。ペースが上がり、これなら早めに着くだろうと、途中お花の写真など撮りながら下りて来た。三股に着いたのは4時50分。下山報告書をポストにいれて、更にゲートへと歩き出した。道路工事の為今シーズン全面通行止めだという事だが、まさかここからまた2時間も歩くとは思わなかった。おまけに私が自分のスパッツの内側の金具に足を引っ掛けて前のめりに転倒。もろに顔面を地面に打ちつけてしまった。鼻血が止まらなかったのにはびっくりした。15分から20分程ザックを枕に休み、ようやく落ち着いた。再び歩き始めたが、車の入れない林道歩きは長かった。痛い思いはしたが、骨折とか大きい怪我で無くて良かった。不幸中の幸いであった。

 ゲートに着いたのは暗くなる直前。少しタクシーを待ち、その間に暗くなってしまったが、何とか元気に下山。タクシー3420円。温泉は7時まで受付だという事で入れなかった。ざんねん!

 中央道50キロ渋滞、途中仮眠をとり運転を交代しながら帰宅する。

“岩稜に雪を残してアルプスは命のみこむ春といえども”
“雨風の過ぎて広がる雲海を常念岳の頂きに見る”