南ア; 北岳
(きただけ)
憧れの南アルプス、北岳へ。お花畑が素晴らしかった!

 H6年7月19-20日(火-水)当日発 ;
 Member.計3名

 【コース】(=は乗り物、〜は歩き)
7/19(火):一日目
立川駅5:39=甲府駅7:44=(タクシー)=広河原9:30-40〜(大樺沢)〜(食事11:45-12:20)〜二俣13:00〜(右俣コース)〜肩ノ小屋16:30(泊)

7/20(水):二日目
肩ノ小屋5:45〜北岳山頂(3192m)6:25-55〜肩ノ小屋7:40-50〜白根御池小屋(2236m)10:05-?〜広河原14:30頃=甲府駅=立川駅


【一日目】
 登りたい山の一つだった。出来れば縦走したかった。でもそうでなかったから北岳の印象はかえって強く残ったかもしれない。

 日帰りではないために自転車で行く事が出来ず、朝は主人に小杉まで送ってもらった。いつものように立川経由で行くが、時間は早い。甲府迄出て、その上2時間近くをタクシーで行く。これがバスならもっと時間がかかる。

 初めての南アルプスに挑戦、期待と不安を乗せていよいよ甲府に降り立った。タクシー乗り場に向かって階段を降りて行くとその前を若者二人が大きい荷物を背負って同様に降りて行く。着ているものはポロシャツあるいはTシャツで軽装だが、まだ雨が降っていないのに早々にザックカバーをかけている。若いに似合わず用心がいいと感心して何気なく目がいっていた。まさかこの二人が私たちと同道することになるとは…。縁とはこんなものなのだろう。

 私たちがタクシーを捜していると思いがけなく彼等が声をかけてきた。思ったより若い二人だったが安くあげるために同乗者を求めていたと言う。気さくな二人に快く同意、一緒に乗った。一気に若返った雰囲気に和気あいあいと会話が弾む。私たち年長者に気を使ってか、二人は常に快活に話に応じてくれていた。性格の良さでもあるのだろう。二人が長男と同学年と聞いて余計親近感が増す。若者らしくていいなと思いつつ、息子もこんなふうに登山すればいいのにと心の中でひとりごちながら。

 広河原で十数分休んでいる時に、メンバーの一人が彼等との間で目的地肩の小屋(同じだったので)まで一緒に行きましょうという話がつき、この後も同道してくれることになった。ペースが合わなくて、彼等には辛くはないかなと思ったがそんな表情は全く見せず、気持ちよく歩いてくれた。心強い限り。楽しい遊びは他にいくらでもあるのに、敢えて辛い山登りをするくらいだから二人ともしっかりしている。優しさと素直さと真の強さを、自然に身につけているのだろう。自分に対する厳しさも持っているはずだ。好奇心も旺盛で、植物にも鳥にも興味を示し、嬉しいことこの上ない。私たちよりはるかに大きい荷物を背負い(キャンプ用品持参のため)、一人は30分位しか寝ていないと言いながら、二人とも新しく覚えた花の名を一生懸命口の中で反復していた。息子と登っているような奇遇に恵まれて、迷惑だったかもしれぬ彼等とは裏腹に、私たちは喜々としていた。それでもその年齢的体力的な差を思いやって、ペースが合わなかったら先に行って頂戴と幾度となく言ったのだが、律儀に最後まで気持ちよくついてきてくれた。

 そんな、傍目には滑稽に写るだろう組み合わせで、ゆっくり登って行った。そして次から次へと現われる植物に目を奪われていった。大樺沢沿いは涼やかで気持ちよかった。休憩ごとに、常にエネルギーを補給。昼食は予定した二俣より手前で早めにした。何より疲れる前に体力を維持しておくことが大事だから。しかしそこまで来ると川の水が枯れていた。川の底深く浸透してしまったのだろう。自炊の二人も何とかあるもので済ませた。雲行が怪しくなって彼等は早々と雨合羽を身につけていた。私達は蒸すと思って着なかった。食事に30分とかからなかったその場を離れると、間もなく雪渓が現われた。冷蔵庫を開けたときのようなひんやりとした冷気が心地よく、生き返った気分になる。それも二俣から右俣コースに入ったため離れて行く事になったが。暑いときはそのまま雪渓を登ったら気持ちよいのだろう。

 右俣コースは相当きついコースなのだろうと覚悟をしていた。ずっと持ち続けていたビデオをいつしまうことになるかと。ところが実際に歩いて見ると地図上の直線よりはるかにジグザグに登っており、その道はしっかり歩き込まれてまったく心配はいらなかった。時間的にも何ら心配することなく、高山植物溢れるお花畑を飽くことなく楽しみながら登っていった。

 尾根にとりつく前、1時間ほど手前だったろうか、とうとう空が泣き出した。私達は傘を出し、三人は一度脱いだ合羽を再び着だした。そのため足元の濡れるのをカバーしてもらうため、先生に代わって、彼等二人に先頭になってもらった。雨に濡れたお花畑も又、生き生きしていい。ようやく尾根にとりついたところで、アオノツガザクラ、チングルマが顔を出してくれた。時間の目処がたった安心感と、新顔とくにアオノツガザクラに出会えたことでとても嬉しかった。そこから肩の小屋まではあと一息、30分もあれば着くが、それこそ風雪に耐えて咲く可愛い花々を、一つ一つ教えてもらって歓喜の挨拶を交しつつゆっくり進んで行った。小屋には4時半頃到着、大体予定通りだった。若い二人のエスコートがあって心強く登ってくることができた(どうも有難う)。

 ここで彼等はテント設営、私たちは小屋へと入る。3000mの夕暮れは寒い。ガスや雲で見晴らしは良くなかったが、時折富士や反対側の仙丈岳が覗いて、その都度山頂にさざめきの声がおきた。

 山頂から家に電話が出来るというのもさすが高峰ならでは。はじめ私はかけるつもりはなかったが、家族を驚かせてあげようといういたずら心で、かけた。娘が出て案の定びっくりしていた。私も普通の電話と同じように通話できて驚いた。

 夜は毛布4枚しかなくて寒かった。眠りが浅かったせいもあってか起きたときは少し頭が痛かった(軽い高山病)。それもちょっとの時間で、山頂のご来光を待つ間に爽やかな気分になった。

【二日目】
 太陽が上がってくるにつれその光と雲の織り成すコントラストは素晴しかった。山頂は昨夜の日没以上の賑わいで皆早朝の清々しさを満喫していた。ゆっくり寝ているだろうと思った昨日の彼等も起きていた。昨夜小屋の中で一緒に話をして、二階から「静かに」と注意される8時ごろまでつきあってくれた疲れも見せず。

 すぐ朝食が食べられるのもよかった。お陰で早い時間に北岳登頂に向かうことができた。この日はとても良いお天気で、見晴らしは今までの中で一番良いとのことだった。

 小屋に荷物を置いて行ったため登りは楽だった。山頂は360度、申し分のない眺望。尾瀬のビジターセンターでお手伝いしているという人と知り合ったが、その人の奥さんがこの素晴しさは380度と形容していた。変な言い方だけど360度では言い足りないという事であるらしい。富士、鳳凰三山、甲斐駒ヶ岳、仙丈岳、遠く中央アルプス、北アルプス等など。中でも北アの槍ケ岳が目に焼き付いている。山頂の少しはなれた場所にイブキジャコウソウがあった。良い香りがするそうなので嗅いで見たかったが、側には近寄れず、ビデオを撮るにとどめた。後から思えば尾瀬でも見ている。ただ、香りまでは確かめてこなかった。残念だった。でもここまで来てキタダケソウには時期的に無理で出会えなかったもののチョウノスケソウに出会えたしイワウメ、イワヒゲ、ウラシマツツジなどその大きさ、手触りを先生のお陰で丁寧に確認できた。

 30分ほどゆっくりして再び肩の小屋方面に下山する。途中で、登ってくる彼等に出会った。彼等とはここでお別れだ。身軽な私たちとは違い昨日と同じ大きな荷物を背負って、この先間ノ岳、塩見岳方面へ縦走するわけだ。若いエネルギーが羨ましい。ますます大きく育つことだろう。怪我などしないよう祈る。

 予定より1時間早く肩の小屋を出発した。昨日見たのはチシマギキョウかイワギキョウかと快晴の真っ青な空の下で確認したらどちらもあった。微妙な違いで、そこまで確かめられる観察眼を育てて戴いていることを有難く思う。わずかだったが、クロユリをこの自然の中でやっと見ることができた。

 途中で小太郎山や二俣への分岐点を通り抜けて白根御池小屋方面へとすすんだ。林の中をずっと行ったため木陰があって楽だったが、草滑りは木陰もない。名前のように草だらけの所を滑りながら歩くのかと思っていたら、それは一昔前のことらしい。大樺沢と同様ミヤマハナシノブが満開でとてもきれいだった。照りつける中、涼やかな白根御池を眺めながら、「小屋につけば氷(かき氷)があるかもしれない」という言葉に励まされて下って行った。が、期待に反してそれは蜃気楼の夢と消えた。小屋前の木陰でお弁当の昼食を食べ一息ついてから出発。

 その辺りから高山植物の植相が変わってきた。もち論見たこともない植物が沢山出てはきたけれど、今まで見慣れてきた山の雰囲気だ。針葉樹の下に群生しているもの、所どころに楚々と咲くもの、日の当たらぬ場所での精一杯の命の呼吸が聞こえてくる。

 北岳、今年登りたいと思い描いたところ。メンバーのお陰で夢の一つが叶って嬉しい。どうも有難うございました。

     “双肩にこれより重き荷を担ぐ時こそ君等この日忘れじ”

     “一望に見渡し歩く雲の上奥穂か槍か富士に立つ夢”