越後山脈・平標山〜仙ノ倉山
(たいらっぴょうやま1983.7m〜せんのくらやま2026.2m)

 ハクサンイチゲ、チングルマなど満開
 晴れていれば谷川山系の素晴らしい展望場

 H16年6月20日(日)
  天気;曇りのち晴
  Member.2人(夫婦)

右写真【平標山とシャクナゲ:松手山から】


 【コ ー ス 】(〜は歩、休憩時間含む)

元橋登山口5:40〜鉄塔6:40-45〜松手山7:20-23〜平標山山頂8:40-9:00〜仙ノ倉山9:50-10:05〜平標山山頂10:45〜平標山の家11:25-12:05〜岩魚沢林道分岐12:50-13:00〜元橋登山口13:50
(所要時間約8時間10分くらい・・休憩含む)


 梅雨の中休みを何処にも行かないのではもったいない。遠出や泊まりの山行プランはいろいろと練っていたものの、さて急に思い立って行くとなると・・・。部屋中たちまち広げた地図だらけになってしまった。綺麗なお花が見られるところ・・・と思いつつ、谷川の地図に手がいった。ピカッとひらめいたのは平標山、決まり!

 私は以前(6年前の今頃)行ったことがあるが、夫は未踏。タカマタギ、荒沢山、谷川から遠巻きに見るたびに、平標山には目がいっていた。というより、プランからいつも洩れていた。谷川の馬蹄縦走では天候の崩れでエスケープしていたし、タカマタギに行った時は積雪が多い年で縦走計画は断念。いくつかリストが上がると私も行ったことがない山に目が向けられるのでいつも選外。夫にとっては今まで遠い山だった。しかし、お花の多い山だし日帰りできるのでやっと今回、日の目をみることとなった。

 決めたのは前日の夕方、急いで支度してその夜の内に出発した。こういうことを即出来るのが夫婦の良い所か。もっとも一人でどんどん行動起こす人もいるだろうけれど。

 関越道は順調で深夜12時前には元橋の駐車場に到着。数台が既に停まっていた。ここの駐車場は広いので助かる。車の側にテントを張って、ひと息ついてからシュラフに入った。眠りにつく前にポツポツとテントに当たる音・・・雨だった。しばらく眠れぬままいつしかまどろみ、4時頃起きた時にはやんでいた。5時には出たいと思っていたのだが、空模様がイマイチよく分からないのと、眠たい気持ちとで30分ほどグズグズと時を過ごす。

 雨音はその後もしないのでやっと起き出した。起きれば時間的にもさっさと出かけたいのだが、食事やらテントの撤収、着替え(夫)や用意などしているとやはり1時間以上要してしまう。

 駐車場にはトイレがあり、ここも水洗だった。しかもトイレットペーパーもついている。トイレの側には公衆電話もあった。タクシーを呼べるように電話番号も書かれてあった。車を使わない縦走の時は重宝だ。登山口はトイレの側にあり、設置されている登山者カードに書き入れてから出発。

 林道を少し歩き、登山口へ。思いっきり降っていたような雨だった筈なのに、登山道はそれほど濡れてはいなかった。ブナなどの天然林の成せる業かと見上げると、大きく包み込むように緑の屋根が広がっている。一雨降って、その緑がより生き生きと見える。

 先行する夫のペースでのんびりと登っていくと、急登もそれほど苦にならずに少しずつ高度が稼げていく。駐車場の中では出発が遅いほうだったが、最初の内に一グループを先に見送った後は、こちらも少しずつ先行者達を抜いていた。けっして早かったわけではないのだが休まずゆっくり登っていったのが良かったのか・・・と思っていたら・・・・(-.-;

左【タニウツギ】

 鉄塔で休憩し、再び歩き出す。松手山までは急だが登りやすい登山道だ。途中何度も背後の苗場山を振り返った。まだ雪が所々に少し残っている。次々に現れる小さな花の妖精たちにカメラを向けながら登っていく。アザミ、ウラジロヨウラク、タニウツギ、ミヤマカラマツ、クルマバソウ、タニギキョウ、アカモノ、マイヅルソウ、ツマトリソウ・・・。気候は涼しく爽やかだったがさすがに汗が流れる。少しだけシャクナゲも咲いていた。松手山に近づくとなだらかな平標山方面が目に入ってくる。楽しみな気持ちが高まって、松手山山頂に到着。吹く風が気持ちいいと思ったのも束の間、一休みして歩き出すと、風は尚いっそう強くなった。次第にガスも広がってきたが、そのガスが南から北へとものすごい早さで動いている。

左【オノエラン】

 いったい風速はどれくらいだろうか?冗談でなく何度も飛ばされそうになった。その度に足を踏ん張るものだから、そのうち「足が攣る・・・」と夫が言いだした。暑がりの夫は半袖だったから、体温もとられて全身が冷えてきていたのだろう。晴れていれば気持ちの良い稜線が、こうなると風よけもなく、飛ばされそうで上着も出せない。何度か立ち止まりながら強風に耐え、機を見て前進するのだった。風に耐え、それでも北側(左側)に体が傾いたまま歩いていくのだが、瞬間風が凪ぎた時、今度はまっすぐに戻るどころか体が南側(道側)に傾いたまま戻らないのには我ながら可笑しくて笑ってしまった。人間の意志など自然の力の前に歯も立たない。それほど強い風だった。4年前北海道の大雪縦走したとき、最終日に北海岳から旭岳に向かったときのことを思い出した。あの時の方がもっとひどかったっけ。

左【ハクサンイチゲ】

 遅々としてなかなか進まないままに、なんとか足を踏み出していたが、登るほどに高山植物がどんどん出てきてくれるのが何よりの励みだった。一面にハクサンイチゲ、ヨツバシオガマなど広がり、間にはイワカガミ、ハクサンチドリ、オノエランなどが咲いている。風が強くて花が揺れ、写真を撮るのが一苦労だった。

 山頂に近づくにつれ、下ってくる人たちとのすれ違いも多くなった。中には谷川から縦走してきた人もいたが、朝方の雨とこの風で大変だったのだろう、合羽と足下のスパッツがその様子をうかがわせた。

左【平標山山頂で:風の強さ分かるだろうか・・?夫の髪が・・】

 山頂も風が強かった。とにかく熊笹の陰に座り一休み。お茶を沸かすどころではなく、手元のペットボトルで喉を潤しおにぎり、あるいはパンを軽く食べた。そこでやっと夫も長袖になる。休んでいる間にも登山者が来るが、山頂に留まる人より写真を撮ってそのまま山の家に下りる人の方が多かった。夫は膝が痛いと言っていたから私達もてっきり下山と思ったが「仙ノ倉山はどうする?」といちおう聞いてみた。私は一度行っているからどっちでも良いのだが・・夫は意外にも「行く」と言う。

左【ハクサンコザクラ】

 ということで、出発。相変わらず風は強い。掘り下がった登山道に取り付けられた階段を下っていくが、風でその隙間に落ちないよう、少々気を遣った。しかし、その木の階段を下りて石がゴロゴロしている登山道を歩いているときバランスを崩した。あららら・・・と思う間もなく前のめりにドッスーンと転んでしまった。まるで小さな子供みたいだ。起きようとしたが右手が痛い。ザックが重たい、重石のようだ。風が飛ばされそうになったときは縦走用の大きなザックなら良かったのに、なんて思ったくせに。やや下りで頭の方の位置が下になっていたせいもある。しばらく亀がひっくり返ったような気持ち!右手が痛くて手間取ったが何とか起きあがった。まず振り返った。あぁよかった、ガスがかかって山頂が見えない。人の姿も見えない。前を向くと何も知らずに夫がトコトコ先を行っている。ったくぅ・・・と思いつつ右手を振ってみる。ウン、大丈夫!折れてない、パソコンは打てそうだ\(^o^)/

左【イワカガミ】

 夫に追いついて「今転んじゃった!」「ふぅ〜ん」で終わり。
妻「右腕を石にぶつけたからアザになったかも。顔を(石に)あてたからアザになったら嫌だな〜」
夫「今頃石が鏡見ながら泣いてるんじゃないか?『こんなにアザになっちゃった!』って・・」
妻「喜んでるよ!きれいな?女の人に頬ずりしてもらって・・・」
夫「『うわぁ〜、こんなオバサンじゃ・・・』って泣いてるよ」
夫の口の構造はどうなっているのか!こういうのを減らず口と言う。私に勝ち目はない・・・

左【チングルマ】

 ガスで周囲の山並みは見えなかったが、仙ノ倉山に至る稜線のお花は素晴らしかった。ハクサンイチゲ、チングルマ、ハクサンコザクラ、ミツバオウレン、コケモモ、ミヤマキンポウゲなど溢れんばかり。せっかくカメラを向けても絶えず風で揺られているのでなかなかシャッターを押せない。後から見るとピンボケが多かった。

 お花畑や展望の素晴らしい稜線で、風で余計なエネルギーを使わなければ仙ノ倉山はそれほど遠くはないのだが、アップダウンを繰り返すだけでなかなか着かないように感じられる。山頂が見えないものだから、夫は「まだ〜?」とうんざりした顔だ。私は確か山の家方面への捲き道があったはずなのに・・・と気付かなかったことに首を傾げていた。

左【仙ノ倉山山頂で】

 やっと着いた仙ノ倉山山頂、誰もいない。数人とすれ違ったが、ここまで来る人は少なかった。2000mを超える、谷川の最高点だ。疲れが不機嫌な顔に出ているが、風を避けるように座って一休みすると「ここまで来れてよかったぁ・・」と満足の面もちの夫であった。

 再び同ルートを戻る間、運良く時々ガスが切れ、周囲の山並みが見渡せた。飯士山、その手前に棒立山からタカマタギ〜日白山〜平標山に至る稜線、そして荒沢山方面、その向こうは巻機山だろう。未知の山は興味深いけれど、登ったことのある山を眺めるのもとっても嬉しい。

左【再び平標山へ向かう、かつての捲き道分岐】

 捲き道を見落とさないよう気をつけながら歩いていたが、休憩場所になっているベンチの所に植生保護のため立ち入り禁止の立て看板が立てられていた。捲き道があるからと言ってあったので、夫はがっかりしたことだろう。私は蒔き道もきれいなお花が沢山咲いていたのに・・と残念だった。相変わらず強い風に耐えながら平標山に登り返し、賑やかな山頂で展望を見納め、山ノ家へと下った。

左【山の家への下りで平標山を見上げる】  

 きれいに整備された木の階段をずっと下っていくと、こちらから登ってくる人も多かった。今までの強風が嘘のように無くなり、一変して日射しで暑くなってきた。なぜか階段になったにも関わらず、夫の足は調子よくなったようで、こうやって下りるんだよと階段の歩き方の講釈をのたまう始末だ。山頂一帯の熊笹は晩秋かと思えるほど葉が枯れているように感じられたが、どうしたのだろう?こちらを下ると熊笹も一変して一面青々ときれいに繁っていた。早くもワタスゲが見られ、タテヤマリンドウ(ハルリンドウに見えるものもある)、イワカガミ、咲き残りのイワイチョウなどもあった。

左【ワタスゲ】

 聞いてはいたが、山ノ家の様子は随分と変わっていた。あのふんだんに溢れていたポンプアップの水場も見あたらない。登山道も小屋の反対側に移り、陽気なヒゲのオジサンの姿が外に見られないのも寂しい気がした。オジサンに、以前来たとき写した写真を持ってきてあげれば良かったと思ったが、急に決めたことでそこまで気付かなかった。今もあの時のオジサンいるのかな?と思いつつ、日陰で昼食。側にいた人と話しながら、コンビニで買ってきた冷やし中華を食べた。コーヒーもいれ、のんびりと過ごしてから下山。12時頃だったがこれから登る人も多かった。

左【気持ちの良い天然林】

 下りはほとんど階段だった。こんなに多かったっけ・・と思いつつ気持の良い樹林帯を下っていった。落葉松やモミジの木もたくさんあって、新緑、紅葉の時期もきっと素晴らしいのだろう。下りで早かったから見落としているかもしれないが、お花はユキザサが目についたくらいだった。岩魚沢林道に出ると先行していた7人グループが休んでいた。私達も一緒に小休憩した後、先に歩き出した。インターネットで見つけた面白い山行記録の話などして、誰もいない林道を二人で笑いながら。

 ゲートまで来て、自由に開くのかと見てみたが鍵がかかっている。先ほど休憩した登山口の側にあった数台の車は誰のもの?以前来たときと同じ疑問を持ったのだった。ゲートの側のポンプから溢れ出る水で手や顔を洗い、サッパリ。立派な別荘の建ち並ぶのを眺め、その価値観など話しながら歩いていると駐車場はもう近かった。

 時間はまだあると思い、法師温泉に向かったが、日帰り入浴時間は13時半までとなっていた。雨と風と無くなった捲き道で、思わぬ時間のズレだった。夫はまだ入ったことが無いという。またしても入り損ねてしまった訳だが・・・おかしいな?一緒に一度来たような気がすると言っても「他の男と来たんだろう」と軽口を言う。「他の男とも来たけどサ!」と私も軽く受け答え。他人が聞いたら何と思うだろう。きっと変な夫婦だろうな・・、いや只変な夫なだけである。