谷川・タカマタギ
 (たかまたぎ1529.2m)
 雪山の時期に歩く山、360度の展望とマンサクの花

 H14年3月16-17日(土日)
  天気;16日朝の内雨のち晴れ、17日晴れ
  Member.4人(斉木夫妻、石原夫婦)

  【マンサクの花】右

 【コ ー ス 】
(〜は歩、休憩時間含む)

16日(一日目)
土樽毛渡橋側の林道9:00〜毛渡橋(554m)〜平標新道分岐〜タカマタギ取り付き9:40-10:00〜送電線鉄塔10:15〜休憩10:53-11:08〜1040mP?11:50-12:08〜(雪洞跡13:15-20)〜棒立山14:10-20〜棒立山直下(タカマタギとの間)14:25 テント泊
(所要時間約5時間25分・・休憩含む)

17日(二日目)
テン場6:15〜タカマタギ山頂6:45-7:10〜テン場撤収7:30-8:10〜棒立山8:15〜1040mP?9:00-30〜送電線鉄塔10:10-35〜タカマタギ取り付き地点10:45〜平標新道分岐10:55〜毛渡橋(554m)11:10〜土樽毛渡橋側の林道11:15
(所要時間約5時間・・休憩含む)


このタカマタギという山はヤブ山で、雪山の時にこそ登るマイナーな山だと知ったのは何年か前だった。恐れと羨望の思いを抱きつつ、いつか登ってみたいと密かに思っていた。ここに行きたいと思っている物好きで、安心して一緒に歩いてくれるような人はなかなかいなかった。「タカマタギ?それ何?」とか「それ山?どこの山?」と聞かれるのが関の山だった。

  ところが身近なところにいたのである、その物好きが。と、言ってしまっては申し訳ないが、たまに山行を共にしている、若いながらも山行経験豊かなご夫婦がリストアップした中に入っていたのだった。この時のこみ上げる嬉しさ!久々に逸る思いだった。しかも雪の上越方面は久しぶりだ。嬉しくてたまらない。改めてインターネットで最近のデーターや天気図を検索。買ってきた地形図、2万5千図にも磁北線をひいた。とはいえ、こうして資料を調べても、実際のところ行ってみないことには雪の様子もルートの状態もよく分からない。

 仕事を終えて前夜発、23時頃だったろうか。金曜の夜の環八はやはり混んでいたが、関越は意外にも順調に流れていた。しかし新潟に近づくと雨が降り出してきた。土樽の毛渡橋側の林道に車を停めて車中泊。

一日目(16日)
 朝7時の目覚ましが鳴るが、外は雨。まだ眠いのと雨音で4人とも快い寝床から起きようともしない。予報では晴れだったはずなのに・・・。ようやく車を土樽の駅の方へ移動し、トイレを借り、再び駐車場所へと戻った。一瞬明るくなりホッとしたが、食事を済ませ、支度をしていると尚も雨は静かに降り続いていた。

 雨の上がるのを期待して、合羽で小降りの雨の中出発。車は発電所へ行く林道の途中に停めた。道路はきれいに除雪されてあった。毛渡橋を渡るとすぐ左に入るよう、平標山と指し示した標識があった。しかし道路は入口あたりが少し除雪されているだけで、その先は行けないように見えたため少し通過した。とはいえ、夜間の記憶でもその先に入るところが無かったはずだと、すぐ橋の側の分岐に戻ってきた。やはりそこから入る踏み跡があった。

 関越道の下をくぐり、そのまま直進して上越線の下もくぐると、緩やかに右へと行き毛渡沢から離れていく。上越線のガード下から200Mほど行ったところで毛渡沢沿いに行く平標新道への分岐となる。丸太の標識があったが、はじめは雪で埋もれていて分からなかった。その分岐を通過。その辺りは目の前に尾根が見え、その尾根に取り付きたくなるが、慌ててはいけない。しかしそちらへの踏み跡がいくつかあったから登っている人もいるのだろう。そこも通過して、平坦な道を行くと、取り付き点があった。別に、分かりやすい杭が打ってあったわけではない。小さな赤布が杉の枝に付いているだけだ(平標新道への分岐から直線にして400mくらいの地点)。今回は既に何人か先行しているらしく、トレースはしっかりついていた。赤布に気づかず、そこを通過している人もいたようだが、下を向いて歩いていると見落としてしまうので要注意。

左【取り付き点からの急登】

 取り付き点で小休止。雨は止み、暑くなったため、上の合羽も脱ぎ、長袖一枚になった。ふと見上げると先行者の数名の姿が見えた。この後も数パーティと会った。ちっともマイナーではないような印象だった。お陰でトレースがついており、ラッセルをすることはなかった。朝一番に出発した人は大変だったのではないだろうか。取り付きからいきなり急な登りになっていく。

 間もなく送電鉄塔が見えてくるが、休憩したばかりなのでそのまま通過。ここで同行者がマンサクの花を発見。その時は少し咲いていたと言っていた。私は気づかず、翌日の下山時に見たが、その時は数本が満開だった。春に先がけて咲くマンサク。今回見た花はこれだけだった。

 目の前に棒立山が見えてくる。朝はガスっていて見えなかったが、すっきりとした形のいい山だ。棒立山の北側に続く尾根へとめざす。尾根の直前では登りがややきつくなる。振り返るとガスもだんだんと晴れてきて、背後に荒沢山の稜線が見えてきた。登っていく左側には樹林帯の合間から、少しずつ谷川岳方面も見えてくる。朝の雨が嘘のようだ。

左【谷川連峰:1040m辺りより】

 ようやく1040m地点あたりに到着。目の前に谷川岳の山並みが広がっていた。歩いたことのある山々の稜線、まだ歩いていない稜線、どれも純白で、朝日にキラキラと輝いていた。大所帯の先行パーティが休んでいたが、ゆっくり出来るスペースは充分あったので、私たちも大休憩をとることにした。もうこの展望を見ただけで充分、ここでテントを張ろうかと冗談が出る。

 これから行く棒立山は、この辺りからみると間近にありながらまだ遠く感じられた。樹林帯ではあるが、ところどころ東に伸びる雪庇が見られる。踏み抜かないよう注意しないといけない。

 少し下って棒立山への登りとなる。しばらく行くと、途中斜面の中腹に雪洞跡があった。雪洞はトレーニングの谷川で一度体験しているが、夫と同行者の奥さんは初めて見ると、興味を示していた。私も、こういうところにも作るのだと感心してしまった。そういえばタカマタギは教育山行が多いとも聞く。時期によってはラッセルの練習であったり、こうして雪洞堀の訓練であったりするようだ。私も一度、仲間にここではやらないのかと聞いたことがあった。答は上述の通りであった。

左【タカマタギ:棒立山より】

 棒立山直下は思ったより急登だった。下りの時は怖そうだ。山頂に立つと目の前にタカマタギ、その向こうに平標山が見えた。きれいな山並みだった。出来ればこのタカマタギに来たときは平標まで行ってみたいと思っていたのだが、今回ははじめからタカマタギピストンの予定だった。しかしこうして眺めると誘惑にかられる。ここも360度の展望。岩原スキー場のある飯士山がすぐ目の前に見える。懐かしい。

 少し空気が冷たくなったので上に一枚羽織り、少しの間展望を楽しむ。楽しみつつテントはどこに張ろうかとか、雪庇の様子とかチェック。こういうときはさすがにCLの斉木さんは慣れている。山頂では風が出たときに吹きさらしになりそうだということで、当初の予定通り、樹のある棒立山直下の鞍部にしようということになった。この時その鞍部にいた1パーティ(5人)もテン場を確保していた。同じ棒立山山頂にいた男性3人連れはタカマタギの向こう側に下ってからテントを張るようであった。

左【テン場を整地】

 5分ほど下り、少しテン場の場所を見定めた後、良さそうなところに落ち着いた。狭い場所で斜面ではあったがスコップも一つ持っていったので、4人で平らに整地。2人用テント二つ、楽に設置出来た。この時日帰りの単独者が下りていったが、タカマタギ周辺でこの日出会ったのはこの3パーティだけだった。

 1時間ほどで終了し、それからタカマタギに行ってみようかという案も出たが、夫がもうイヤだというので、翌朝行くことにした。その後は私たちのテント内で宴会。斉木さんが持ち上げてくれたビールは最高に美味しかった。そのあとは自家製の梅酒と寄せ鍋、麻婆春雨、つまみなどで話に花が咲いた。夜空は星が輝き、月は三日月だったがガスもかからず山はきれいに見えていた。7時半頃には片づけ8時前にはシュラフに潜り込んだ。

左【朝日:鞍部のテン場より】

二日目(17日)
 夜中はずっと風が強かった。4時起床で5時出発、山頂でご来光を仰ぐ予定だったが、強風でどうしたものかとシュラフの中で躊躇っていた。15分ほど過ぎて一応起き出す。テントから顔を出すと、星が出ている。天気は良さそうでほっと一安心。また一緒に朝食を食べ、テルモスに入れるお湯などを用意。外の様子を伺いながら強風がおさまるのを待っていた。のんびりと支度してテントはそのままに、アイゼンをはいて出発したのは結局6時を過ぎていた。朝日が顔を出し、山がほんのり顔を染めるのを見ながらタカマタギ山頂へと向かった。

 トレースもあり、アイゼンをはいているためサクサクと歩きやすい。思いがけず30分ほどで山頂到着。山頂の東側で雪洞泊している人がいた。雪庇の張り出す東側だったので、その辺りの地形をよく知った人でないと出来ないと思うような場所だった。しかもその上が山頂だから、その上に登山者が立つわけだ。私たちはその上に乗らないようにしたが、後から来る人は分からないかもしれない。

左【タカマタギ山頂から平標山】

 山頂からの360度の展望は素晴らしかった。あまり名の知れていない?山ではあるが、谷川連峰をはじめ、新潟の山々がぐるり見渡せる。少し風があったので地図はそこそこにたたんでしまったが、 苗場の南方面には佐武流山や白砂山もあるはずだ。タカマタギは期待以上の山だった。二日間、天気に恵まれて何よりだった。谷川方面には初めて来たという斉木さんの奥さんも、まるで3000メートルかヒマラヤの山に来ているよう・・・と感激の様子。彼女は仕事などで、海外にも行っており、ネパールにも行ったことがあるそうだ。彼女の入れてくれた温かいコーヒーを美味しく戴きながら、そのままいつまでもそこにいたい気持ちだった。山頂を南に下りた所にテントが一つ、前日に棒立山山頂で会った人たちだろう。その先にトレースは無いようだった。

左【タカマタギ山頂から棒立山】

 山頂4人占めで充分楽しんだ後、下山。緩やかに下っていく。テン場に着く頃、もう一組の若い5人パーティが登っていくところだった。テント撤収後、棒立山へ。山頂は通過し、緊張の下山。はじめはトラバース気味に下る。踏み後は幸いにまだ堅いが、歩きにくい。斉木さんは踏み跡のない急斜面をスタスタ下りだした。さすがに腰が引けて私は前日の踏み跡の方を行くが、そこへ団体がやってくるのが見えた。10人以上はいそうだ。踏み跡をよけたが場所が悪く、踏み込んだ時の小さな雪玉がころころとその人たちの方に落ちていく。夫に注意され、先頭の一人を見送ってから、反対側に移動した。そのパーティは年輩の人が多かった。下から見ると私の下り方が気になったらしく、足をまっすぐおいた方が良いと注意された。私はこの人たちに気を遣っていたのだが、腰が引けていたのはすっかり見抜かれてしまっていた。こういう場はいまだにまだ慣れていない。

左【樹林帯を下る】

 山頂直下を下った後は踏み跡の無いところを行ったり、尻セードをしたりして気楽に下りていった。気温は前日より高く既に15度を超えており雪質はだんだんと湿っぽくなってきた。1040mPで、休憩。最後の展望をゆっくり堪能してから更に下山。

 途中数パーティとすれ違ったが、その人たちのものと思われるテントが、ところどころにあった。また立派な雪洞を作っている所もあった。それぞれが樹林帯の中だったから、尾根にいた私たちのような強風は無かったことだろう。

 送電線の鉄塔の所で最後の休憩。そこではマンサクが満開だった。眼下に土樽や岩原スキー場などが見え、お昼前には下山してしまう寂しさを感じる。最後に尻セードで一気に滑り降りるともう林道の取り付き点だった。あとはほぼ平坦な道をゆっくり行くだけ。途中の平標新道分岐の広い所で斉木さんの奥さんが雪の上に横になり、雪上に天使を描いた。へぇ〜、なるほど、面白い、拍手!

左【毛渡橋から見る棒立山】

 毛渡橋まで来て、改めて棒立山を仰ぎ見る。出発の時は雨で見られなかったが、こうしてみると姿の良い山だ。タカマタギは陰に隠れて見えない。魚野川へ流れ込む毛渡沢が雪解け水で勢いがある。その澄み切った音を聞きながら、車の所に戻った。