伊豆;天城山
(あまぎさん)
山歩きを始めて早くも一年、植物の学習を兼ねて記念登山!

 H5年6月3-4日(木、金)当日発 ;
 Member.計3名

 【コース】(=は乗り物、〜は歩き)
一日目(3日)天城山
川崎駅5:39=(東海道)=横浜駅5:47=熱海7:09-23=(伊東線)=伊東7:45=(タクシー)=万二郎登山口8:30-40〜万二郎岳(1294m)10:20〜万三郎岳(1405.6m)12:05-30〜片瀬峠12:50〜戸塚峠13:38〜八丁池(1170m)15:05-15〜水生地下16:55--17:22=(バス)=修善寺=(伊豆箱根鉄道)=伊豆長岡18:30〜食事19:10-55〜買い物20:05-15〜宿20:20着(泊)


 前日になって、例年より早い梅雨入り。ナンテコッターと思いつつ、天気予報ばかり気にかけていた。雨天の場合コース変更して決行の予定だったが、登りたいという気持ちから条件の良い日にした方がいいかなという考えが頭をかすめた。しかし降水確率20パーセントを良い方に賭け先生の「とにかく行ってみましょう」という鶴の一声で当初の予定に戻る。

 いつもより早い出発、東海道をそれぞれの最寄りの駅から乗り合わせ、わくわくするよりしきりと空模様を気にする車中の3人であった。絶え間なく雨は静かに降り続け、空が明るくなる度に喜びの声をあげるのだが、最後まで期待は裏切られるばかりだった。とにかく熱海まで・・・と行く。そして雨はたいした降りではないし、コースもそれほどきつくはないから登ってみましょうと判断して伊東に着いたときはもう意気消沈。それでも行く気になったのは以前私も先生も歩いたことがあり、不安に思うほど大変な山ではないと確信が持てたから。タクシーに乗り込み、サービス精神旺盛の運転士さんと会話を交わしている間もワイパーはせわしなく動いていた。それでも雨に濡れて、より美しい山の緑やハコネウツギ、ヤマツツジ、ミズキ等の花々が目に飛び込んでくるにつれ、気持ちは次第に高鳴ってくる。
“雨に濡れ緑冴えるる登山口雨具身につけ我等踏み出す”

登山口で雨具を身につけいざ出発。8時40分だった。ところが、難関はすぐにやってきた。流れの早い小川が行く手をふさいでいた。そこではビデオを撮るゆとりなどなく、一歩間違えれば濡れ鼠という緊張感の中、足の置き場を目で捜しつつそれぞれ踏み出した。苔蒸した石に足をとられることを恐れてためらっているうちに、先生がいち早く向こうへと渡った。おかげで引っ張りあげてもらって私達も無事難関を突破。この後も先生の強い味方ゴアテックスの靴の威力は発揮され、水に濡れるなどは恐れるに足りぬとばかりに豪快に前進されるのだった。私達は一応気をつけて歩いた。幸い中までしみこむこともなく、ただ滑らないように注意して歩いていった。

 雨に濡れた森は生き生きしていた。そして私達も。眼前に一種異様な裸のような樹を見たときはビックリした。それはヒメシャラだった。これが・・・とその、雨でテラテラ光った姿をまじまじと見つめてしまった。堂々たる風格、女性的な姿、美しいと思った。コアジサイがかわいい蕾をたくさんつけていた。足元には小さいミヤマシキミが地をおおっていた。コウモリソウはまさに手を広げた姿そのままで、忘れられないだろう。シコクスミレは咲いているところを見たかった。巨大なヒキガエルの姿にはびっくりさせられた。ピチピチピチという鳥の囀りに上を見上げたら梢の先に真っ青な空がのぞいていた。まだ9時頃、雲の流れが速かった。カンアオイは群落を持ち、絶滅種の看板は必要あるまいと思われるほど今までにも何回も見てきた。
“原生林示すかのように足元へ手を広げたりコウモリソウ群”
“吾気持ち悪いと離れしヒキガエル迷惑千万蛙にすれば”

 花がほとんど見られなかった下草に比べ目についたのは吊り鐘のようにぶら下がったサラサドウダンの白い花、ベニドウダンの赤い花、白い花のドウダンツツジ、そして花の時期を終わりかかったアセビも風当たりの強い場所で真っ白に咲いていた。ネパールの国花だというシャクナゲはピンクや白できれいだった。何より見事だったのはそれらの枝の張り方。いったいどれほどの歴史を通り過ぎてきてるのだろう。緑の濃淡の中に一際鮮やかなミツバツツジは丁度見頃だった。強い風の中でしっかりと咲いていた。
“幾重にも枝張るシャクナゲ見上げればそれ外国(とつくに)の国花を思わじ”

 ハウチワカエデ、コミネカエデ、ウリハダカエデ、コメザクラ、ムシカリ、マユミ、リョウブ、トネリコ、ヤマグルマ(トリモチをつくるという)、サワフタギ等確認しながら今までのおさらいもできた。

 万二郎を少し下ったところで視界が開けた。3人で感激してその風景に見入る。ヤッターと両手を挙げて叫びたいほどだった。
“万二郎の峰より眺むる万三郎ミツバツツジは風に吹かれり”

 天城の最高峰、万三郎岳で昼食。風が音をたてて鳴っていた。見晴らしもなく、周りが樹木で囲まれているにもかかわらず、寒くて30分足らずで下山。そして歩けばすぐ暑くなる。山頂に立ってその感慨がなかったというのは珍しい。まして百名山なのに。

 下山すると辺りの樹木の風景は一変してブナの林となった。雨に濡れたままのその姿は黄緑の葉から洩れて射し込む陽の光に映えていた。ブナと熊笹・・・・丹沢を思い出す。そして男性的なブナと女性的なヒメシャラの混ざった林は美しい調和をかもしだしていて素晴らしかった。時折振り返ってはその原生林を眺め、この目に焼き付けた。
“風騒ぎ天城の木々のゴォーッと鳴るブナに交じりて吾も背伸びす”

 相変わらず花の咲いた下草は少なかったが初めて見る珍しい花に出会った。寂しげに佇むギンリョウソウ(銀竜草)だった。先生も久しぶりに見る花という。真っ白な姿。光合成が出来ないという。別名幽霊草というそうだ。十数センチの小さい花だがまるで昔話に出てくる雪女の化身のようだった。

 今は春の花が終わって夏の花へと変わる移行期なのかちょっと淋しかったから、ツボスミレを見て、ほっと笑みがこぼれる。ナガバノスミレサイシン等も咲いたようだが既に終わっていた。ツクバネソウは咲いていたがなんと6葉のものがあって驚かされた。もうちょっと後だったらクモキリソウ(ラン科)が見られた。図鑑で見たら小さい花がいくつかついていてランの持つ華やかさは感じられなかったがいつか是非見てみたい。もうすぐ咲くであろうツルアジサイも見てみたかった。
“私ここ此処にいるのとツボスミレ撫でてあげたし頬摺りしたし”

 八丁池はもう20数年振りになる。私達の他には誰一人居ず、静かな水面をなつかしく眺めた。かつては火口だったとは思えないほど周りを囲む木々の表情が優しかった。ミツバツツジなのだろう、ところどころ鮮やかなピンクと真っ白なアセビの木が美しかった。ウグイスとヒガラだろうか、澄んだ鳴き声が響いてくる。時間があればそこでゆっくり耳を傾けその静寂な風景を楽しみたいところだったのだがバスの時間に急かされ、あすなろの木があるその場を後にした。

 一貫して目についたシダ類の数々、今回も又新しいものを教えていただいた。イヌワラビ・クサソテツ(コゴミ)・ヒカゲノカズラ(寿司屋で使った)、ゼンマイ、ヘビノネゴザ・・・。翌日更に新たに違ったシダ類が出てくるものだから随分とビックリしたが、先生の分かり易い説明にひとつひとつ納得しながら学習できた。問題は私の記憶力!

 天城峠に向かう予定だったがバスの時間が心配だったので少し近道という水生地下のバス停の方に向かった。途中、そばを流れる川の水音を聞きながら見事な実をつけたミツバカエデに感嘆の声を挙げ、ハンショウヅル(日本製クレマチス)の紫の花にその名のいわれを認めてなるほどと頷いたり、小判のような形の葉のワレモコウに見入ったり飽くことのない道であった。バス停では先生がモミジイチゴを見つけてきて早速試食。私のは小さかったのでまだ甘くはなかったが、熟していたのは美味しかったそうだ。

 バスは私達だけでまるで貸し切り。のんびりした道中、じっくり伊豆の山々に目をやった。修善寺から電車で伊豆長岡へ出、タクシーを利用するつもりだったが先生の「歩きましょう」という提案で歩くことにした。でもそのバイタリティーには内心驚いた。

 友人に借りたリゾートマンションの近くで夕食を済ませ、スーパーで朝食の分を購入してやっと着いたのは八時半近かった。温泉つきでゆっくりでき、メンバーに喜んでもらえて良かった。こうして宿でくつろげるということはまさに旅の醍醐味で、リラックスして心ゆくまで語り合った。充実した時を持てたと思う。

二日目(4日)葛城山〜発端丈山