日光・庚申山〜鋸山〜皇海山
 (こうしんさん1892m〜のこぎりやま1998m〜すかいさん2143.6m)

 三年前、雪山で撤退した山へ。やはりハードでした。


 H14年4月27-28日(土日)
  天気;両日曇り時々晴れ
  Member.2人(夫婦)

  【鋸山から皇海山への稜線:庚申山より】右

 【コ ー ス 】
(〜は歩、休憩時間含む)

27日(一日目)
銀山平11:25〜一の鳥居12:20-30〜庚申山荘13:45(小屋泊)
(所要時間約2時間20分・・休憩含む)

28日(二日目)
庚申山荘5:00〜庚申山山頂6:18-25〜見晴台6:28〜薬師岳7:47-8:02〜鋸山9:08〜分岐(鞍部)9:58〜皇海山11:00-10〜分岐(鞍部)11:48〜鋸山12:47-13:03〜六林班(ろくりんぱん)14:10-20〜庚申山荘16:35-50〜一の鳥居17:35-40〜銀山平18:35
(所要時間約13時間35分・・休憩含む)


 三年前の1月、銀山平から皇海山までの予定で、行ったことがあった。メンバーは私たち夫婦を含め5名。トレースもなく、雪の多さに薬師岳までで撤退していた。しかしこの時の選択は間違っていなかったと、今回行ってみて改めて思った。

 母の入院や屋根の修理など重なって、GWの予定はずっと宙に浮いていた。しかしようやく目処がついて、GW前半に出かけようと決めたのは直前になってからだった。とにかくインターネットで情報収集、年によってはこの時期でも積雪が多く厳しいこともあったようだ。 今年は雪が少ないのではないかという予想ではあったが、行ってみないことには分からない。無理ならばそこでやめればいい。

 それでも1月とは全く事情が異なるから山荘一泊で大丈夫だろう。最終日の三日目は一応予備日にあて、行けそうならば、太郎山PHをしようと決めた。

一日目(27日)
 初日のコースタイムは庚申山荘までだから当日の出発でも充分間に合う。しかしGWの混雑を憂慮し前日仕事を終えた後、夜中に出発。銀山平に午前4時過ぎ到着。そのまま車中泊。別の山に行く余裕はなく、10時頃起床して、昼近くにのんびりと歩き出した。

左【一の鳥居】

 約1時間は林道歩きだが、今回は全行程でも2時間ちょっとだから苦にはならない。雪道で一度は通ったことのある場所だ。風景は一転して新緑で美しい。山桜、山吹、ミツバツツジなどで彩られ楽しい気持ちにすらなってくる。写真を撮りながら1時間弱で一の鳥居に到着。この間、釣り人の車が何台か見かけた。銀山平にはゲートがあって閉まっているのだが、何故か開けられる人もいる。

 一の鳥居で少し休憩し、今度は山道を登っていく。周辺はやはり新緑が素晴らしい。鏡岩や夫婦蛙岩、仁王門など通過するにしたがい緑はなくなっていった。しかし見上げると山の上の方にヤシオツツジが咲き始めていた。

 ゆっくり歩いても庚申山荘には2時間半とかからずに着いてしまった。ここまでに積雪は全くなかった。時間がまだ早いから、少し先まで登り、ツエルトでビバーク体験をしようかという案も出た。しかし雪もまだ残って上の方は寒いという事だったので、翌日の長丁場を考え予定通り山荘泊まりとする。

 山荘の中は広く、布団が充分ある。管理人はいないがきれいに使われている。自炊室には水道が二つ取り付けられており、外のトイレの側にも水道がある。トイレもきれいだった。利用料は一人2000円、これは安い。用紙に記入して料金箱に一緒に投函。あとから領収書が送られてくるそうだ。

左【ネコノメソウ】

 到着は私たちが最初だった。畳のある部屋に布団を敷き、時間がまだ早いので登山口の確認がてら少し上の方まで散策。途中に黄水仙が咲いていた。空荷で登っているのでスイスイ登っていける。空荷だとこんなにも違うものかと思えるほど楽だった。三年前に歩いた積雪期とは多少コースが違ったことは確認できた。3時頃には引き返し、山荘の方へ下りていくと、年輩の男性が一人下山するところだった。まだ暗い午前2時に銀山平を歩き始め、皇海山まで行ってきたとのことだった。そして日帰りだという。私たちをわざわざ待ってくれていて、その情報をいろいろ教えて戴き、有り難かった。それにしても、そのバイタリティには驚いた(翌日同じコースを歩いて、なお驚嘆)。

 その夜山荘泊のメンバーは私たち夫婦を含め、夫婦3組と若い単独男性一人だけだった。一つのテーブルに3夫婦が集まり、夕食を共にしながら山の話に花が咲いた。

二日目(28日)
 4時頃には起きて出ようと思っていたのだが、寝過ごして予定より遅い5時の出発となった。それでも体調を整えながらゆっくりと登っていった。今回のコースに備え荷物は軽くしてきたのだが、必要装備を持つとどうしてもそれなりの重さにはなってしまう。

 庚申山山頂までに梯子がいくつかあり、岩の所も通る。ルートがやや分かりにくい所もあるが、積雪期と思えば歩きやすい。お山巡りへの分岐を通り過ぎて間もなく初めて雪が現れた。

 以前来たときは、庚申山山頂近くでテント泊をした。その場所に来て、思わず記念撮影。そこから山頂までは近い。10分で庚申山山頂だ。展望はないが少し休んで先に行く。すぐ側に展望台があったのを忘れていた。展望台を通過するとき、目の前には右に皇海山、左に鋸山がきれいに見える。「遠いなぁ・・・」とぽつり。

左【霧氷と皇海山】

 そして下るときに一瞬息を呑んだ。なんと霧氷が目の前に広がっている。気温は零度。歩いていると寒くは感じないがけっこう低かったのだ。写真を撮りながらも「きれい」を連発、すっかり見とれてしまった。鋸山十一峰のアップダウンを繰り返し、鋸山へと向かっていく。この十一峰とは庚申山から鋸山までのピークの数を指すのだろうか?薬師岳までは前回も歩いたところだが、今回その手前でルートを少し外してしまった。先頭を行く夫の後を黙々とついていったのだが、それではいけないと思い知る。しかしそれも喉元過ぎれば何とやら・・・

左【薬師岳で】

 薬師岳に着き、改めて前方に聳える鋸山方向を眺める。雪の時は近寄りがたかったが今回は手招きしているようだ。ここで前夜庚申山荘で一緒だった福井のご夫婦が到着。私たちが山荘を出る頃、彼等は食事するところだったのに早い。荷はナップザックのような感じだったから、極力軽くしてきたようだ。小屋にもどるのだからそれでも良かったのかも知れない。

 今回の私たちの主な装備はツエルト・無線機・携帯・ロープ・コッヘル・ガス・カートリッジ・デジカメ・救急用品等が共同、6本爪軽アイゼン・飲み物・食料・ヘッドランプ・予備電池・雨具・シュリンゲ2・カラビナ2-3・フリースなどが個人装備だった。他にナイフや地図諸々細かいものが入る。今回のコースは鎖場や荒れた岩場などあるということだったので、これでも減らしたのだが、実際歩いてみて、まだまだ甘かった。しかし有事の場合を考えると最小限でもある。

 服装は春山だが、残雪や沢の徒渉もあるのでスパッツははじめから装着(これは正解)。ピッケルはやめてストックを持った(これも正解、しかし鎖場では要注意)。ここまでの残雪の状態は、既に解けているところもあるが、樹林帯の中などはまだ40〜50センチは残っていた。気温が低いので締まって歩きやすかったが、たまに踏み抜くと膝上まで埋まるところもあった。これからは陽気が良くなる一方だし、雨でも降れば、しばらくは雪が腐って歩きにくくなるのだろう。

左【蔵王岳の鎖場より熊野岳を望む】

 薬師岳でお二人が先行した後、一休みしてから私たちも出発。次の蔵王岳を過ぎると下りに鎖場が現れた。切り立った向こうの登りに先行の二人が取り付いていたが、積雪期にここを通らないで良かったと心底思った。お互いに手を振りあって挨拶を交わす。

 熊野岳、剣ノ山も鎖場など注意して通過、意外にも鋸山までの距離を感じた。情報としては取り付けられた鎖やロープが不安ということだったが、確認しながら進み、持参したロープを使うことはなかった。しかし、取り付けられた木の根が不安なところもあったし、岩場の脆いところもあった。この先ますます注意は必要だろう。

左【滑落】

 鋸山に着いたとき、皇海山はガスの中だった。皇海山は目の鼻の先だが、夫は疲れたらしく、ここでもう待ってるよと言いだした。しかしもう少しだからと下りにかかった。この下りは雪が沢山ついていて注意が必要だと聞いていた。雪のない山頂近辺や、岩場を下り、急斜面の雪面を見たときなるほど・・・と思った。この時はまだアイゼンはつけていなかった。少しキックステップで下りていったが、軽登山靴では不安を感じ、私は樹林の方へ寄っていった。先を行っている夫は尚もキックステップで下りようとし、目の前であっという間に滑ってしまった。側の木を掴んだがするりと抜けてしまい、加速して落ちていく。ザックで体の向きが変わり、滑っていく様を上からただ見つめているしか出来ない。「自分でなんとかせい」と怒鳴りたくなるほどだったが、一瞬のことで実際私はその時何も出来なかった。下の木の所で緩やかに停止し、夫のホッとしたような声が聞こえて、やっとこっちも安堵した。約10m滑落。雪の急斜面をそんなに急いで下りずとも、右手の樹林に登山道があったものを・・・

 夫の側に行くと「ウエストバックが切れちゃった・・・」。ともかく体に怪我はなかったようで安心した。ザックの中身をこちらに少し移し、ウエストバックを入れるスペースを空けた。急斜面をとりあえず下り、次のピークに着いたとき、「やはり皇海山は一人で行って来いよ」と夫。鋸山頂で待っているという。今度は樹林の中をゆっくり注意して登るというので、そこから一人で皇海山山頂へと向かった。

 この日鋸山から皇海山までは雪がまだいっぱい残っていた。多いところでは1mくらいはあっただろう。登山道は殆ど消えていたのでコメツガなどの樹林帯の中、方向を見誤らないように、慎重に登っていった。こういうとき、人の足跡ほどあてにならないものはない。それにしても疲れた・・・・。ペースが落ちているのが自分でも分かる。途中でアイゼンを装着した。

左【皇海山山頂】

 かなり登ってから先行の二人が下山してくるのと出会った。そこから山頂は間もなくだった。単独の若い男性もちょうど下りていくところで、山頂には私一人で立った。嬉しい一瞬だが、周囲の展望は樹林に囲まれて良くない。がっかりだった。展望図があったのでわずかに日光白根や平ヶ岳、燧ヶ岳が確認できた。一息ついてから早々に下山。夫が無事に鋸山に着いたのか、また、寒くはないかと心配になる。こんな時、夫も無線の資格と無線機をもっていればと思う。常々資格を取るように言っているのだが、 頑固者の夫は忙しいの一点張りで取ろうとしない。こういうときは携帯も私しか持たないし、この山域ではずっと圏外だった。

左【鋸山:皇海山の下りで見る】

 皇海山の下りもルートを誤らないよう目印を確認しながら下りていった。樹間から鋸山を見たときは思わずため息が出た。針のように天を指す山容は、またあそこを登っていくのかという失望感を与えてくれる。鞍部の栗原川林道の分岐まで着いて、改めてそちらの登山道に目をやった。昨年の夏、大雨で林道が崩れ、まだ復旧はしていないということだった。

 登りにかかり、夫と別れた辺りで単独男性と会った。「鋸山で(夫が)待っていましたよ」という言葉を聞いて、ホッと一安心。まだ山歩き経験は少ないようで、雪山は初めてだと言っていた。夫とも話してきたようだが、そこでも少しおしゃべりして別れた。

左【鋸山で、バックは登った皇海山】

 いよいよ鋸山を登る。急斜面だけに、ゆっくり登っても高度は稼げる。なんだかんだ言っても、山頂につけば夫がいると思えばやはり安心で嬉しくもある。山頂標識が目に入って、その先に夫がいた。「ヤッホー」「オゥー」。振り返ると今度は皇海山がきれいに見える。日光白根も尾瀬方面の山も見える。往きはガスで隠れていたが、すっきりと見えて嬉しくなってしまった。そこでポーズ。

 鋸山からは六林班(ろくりんぱん)へのコースをとる。庚申山荘から六林班経由でピストンした先行の単独男性の話でも、そちらは雪があるというので夫もアイゼンを装着。準備しているとちょうど袈裟丸山から歩いてきた単独男性が来た。そこで休憩をとっていたのですこし話した。こういうときは新しい情報が即得られるので助かる。今回は登山者が少ない中で、単独の若い男性3人に出会ったことになる。中高年が多い昨今珍しい。

左【六林班へ向かう道】

 準備して六林班峠へ。多少のアップダウンはあるが、白樺林やブナ林、クマザサなどの中を歩けて気持の良い稜線だった。夫はゆっくり休憩したお陰で元気が出ていた。調子よく夫の後をついていったが、途中でまたもやルートを見失った。夫が先行者の単独男性の足跡をついていったためだった。おかしいと思ったところで見覚えのあるその男性の手袋を片方拾い、分かったわけだが、その後を疑いもせずについていった私、まったく懲りていなかった。夫といえど、こういうときは信じてはいけない、自分の目で確認して進まなければいけないと肝に銘じる(^o^)(^o^)(^o^)

左【ガレ場】

 軌道修正して再び歩き出す。六林班峠ではUターンするような感じで山腹を行く。沢を渡ること十数回。がれているところもあった。上に取り付けられているロープを伝いながら細い丸木を渡るところもある(左写真)。コースが嫌になるほど長い。曲がり角まで行くたびにまだ着かないという失望感を味あわせられる。今度こそ小屋が現れるだろうと思いつつ、何度もその気持ちは裏切られた。コースタイムより早めに着くだろうと思っていたが、それは休憩無しで歩いた場合だと知る。しかしブナ林は見事だ。まだ新芽も出ていないが新緑、紅葉はさぞや素晴らしいことだろう。このコースでは途中、六林班峠でテント泊して袈裟丸山に向かうという男性二人に出会っただけだった。

左【アカヤシオ】

 小屋の近くだとはっきり分かったのは右方向に見晴台があると分かったときだった。ここまでくれば庚申山荘までは数分だろう。展望台まで行こうとはもうこの時思わなかったが、アカヤシオがきれいだったので、写真だけ写しに行った。

左【庚申山荘で】

 そこから山荘までは5分程。手袋を落とした男性がちょうどいたので夫が手渡した。この時まで気づかなかったようで驚いていた。ここで休憩した後下山。当初もう一泊する予定と言っていたその男性(25歳)も下山するというので一緒に下りていった。ここからは気楽な道だ。三人でいろいろとしゃべりながら、一の鳥居まではハイペースで行った。熱くなったので、一の鳥居で上着を脱いだ。あとは林道歩きなのでゆっくり行ったが、長かったにも関わらず、息子くらいの若い連れが出来て、楽しかった。銀山平にはどうにか暗くなる前に到着。

 銀山平のかじか荘で温泉(一人600円)に入ることが出来たが、投宿者が多いため、食事は出来なかった。それでもサッパリできただけ嬉しい。このあとは途中で食事を済ませ、太郎山へと向かった。